クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲(2001/4/21)

 

 「クレヨンしんちゃん」というと、当たり前ですが子供向けのイメージが強いですが、
漫画やテレビ版のを見ると、「これは大人じゃないと分からないネタだなあ」というような、
むしろ大人向けのような気がする物語だと思います。


 しかし、その中でも、「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」という
劇場版のアニメは、はっきりいって子供が見ても分からないのではないかと心配するような、
逆に団塊の世代前後の方が見たら感動するのではないかと思う映画です。

 映画のあらすじはネタバレになりますし、検索するとレビューが僕よりも詳しく上手に書いていらっしゃる
サイトがあると思いますので割愛しますが、少し申し上げますと、いわば現実に迎えた21世紀を否定し、
希望に満ち溢れていた20世紀を取り戻そうとする勢力に、21世紀の世代である5歳児のしんちゃんが
立ち向かう話です。


 ・・・こういうとなんだか面白くない映画に聞こえますが、実際は非常に面白くコミカルで娯楽映画としても
当然面白いです。しかし、その中で語られている、物語のキーパーソンである「ケン」という人物が語る
言葉は、20世紀に生まれて過ごした世代にとっては、非常にある意味で共感を持つものではない
でしょうか。抜粋しますと、ケンは「イエスタディ・ワンス・モア」という組織のリーダーで、20世紀博という
表向きは20世紀文化を懐かしむアトラクションを各地に立てますが、その巨大な建物の中には、
秘密裏に擬似的な20世紀半ばの町並みそのままで、街自体の生活文化も20世紀半ばと同じの、
「夕日街銀座商店街」があり、秘密司令部から戻るときに、恋人のチャコとこのような会話を
かわしながら歩きます。

 

 

   ケン「ここには外の世界みたいに余計な物がないからな。昔、外がこの街と同じ姿だった頃、
    人々は夢と希望に溢れていた。21世紀はあんなに輝いていたのに。今の日本に
     溢れているのは、汚い金と燃えないゴミだけぐらいだ。これが本当に、『あの』21世紀なのか。」      
  チャコ「外の人たちは心が空っぽだから。物で埋め合わせをしているのよ。
    だから要らないものばっかり作って、世界はどんどん醜くなっていく」

   ケン「もう一度やり直さなければいけない。日本人がこの街の住民たちのように、
    まだ、心を持って生きていた『あの』頃まで戻って。」

   チャコ「未来が信じられた、あの頃まで」



 ・・・これは確かにはっきりいってしまえば、古典的な懐古主義に過ぎない、ともいえます。
20世紀、人々が思い描いていた「21世紀」の姿と、この私たちが生きている現実の21世紀を考えると、
人間は適応能力があり、歴史に「if」は意味はないかもしれませんが、
何の疑問もなく現在を生きていているのに対し、「もしかしたら違う21世紀があったのでは」
「もしかしたら他の21世紀の姿がありえたのでは」と、想像をしてしまい、20世紀への郷愁とともに
現代21世紀の未だに抱えている諸問題について思いを馳せてしまいます。


 しかしながら、このような20世紀への郷愁溢れるシーンが続く中、21世紀を生きる、21世紀を担う、
5歳児のしんちゃんは、「20世紀博」に20世紀への懐古に洗脳されたお父さんお母さんを、
「20世紀から21世紀に続く今に至るまでの私たち家族」の大切さを思い出させる事により、
洗脳から解き放ちます。

 そしてしんちゃんら野原一家は、ケンの計画を阻止するために、家族一丸となって戦い、その姿の中継を
見た、「夕日街銀座商店街」の「永遠の20世紀文化に生きる街の住人」たちの心を揺り動かし、
それを原動力にしていたケンの計画は終わりを迎えます。そしてしんちゃんはついにケンと対峙します。




 ケン「街の住人達もあいつらを見て、21世紀を生きたくなったらしい」

 チャコ「ウソよ!ウソでしょ!?私たちの街が、私たちを裏切ったってこと?!」

 チャコ「どうして?ねえ、どうして?!現実の未来なんて、醜いだけなのに!」

 しんちゃん「オラ・・・父ちゃんと母ちゃんとひまわりやシロともっと一緒にいたいから・・・。
       ケンカしたりアタマにきたりしても、一緒がいいから・・。 あと・・オラ、大人になりたいから!」

 チャコ「・・・おしまいね・・・」

 ケン「ああ・・・20世紀は、終わった・・・」

 ケン「ぼうず・・お前の『未来』、返すぞ・・」


  僕も20世紀に戻りたい、20世紀への郷愁を感じる人間であり、この現実の21世紀・・・相変わらず
続く戦争、人々の醜い対立、恐ろしいほどの貧困と富の格差、環境破壊などの現実に、
「こんなはずじゃなかった、違う道があったはずじゃないのか」という想いは、非常に強いです。
非常に素朴で、単純極まる懐古主義で、この作品で訴えられている21世紀への疑問も、
確かに古典的な懐古主義かもしれません。



 しかし、それらの「おかしい」と思う事と、現実を否定し逃げる事は別です。そして、もしかしたら
読んでいる方は「当たり前じゃないか」と呆れるかもしれませんが、この「おかしい」と思う事もある
21世紀の「今」は、しんちゃんが主張するように、私たちの人生の連続であり結果である大事なもので
あり、「今(21世紀)がおかしいから否定し20世紀を懐古する」のではなく、「今」を生き「おかしい」なら
これから変えればいい、という聞く人が聞くと「当たり前」な、しかし、重要なメッセージがこめられている
と思います。

 

 

 

 


AX



○後記
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