TPPの持つアメリカニズムによる国民主権の侵害の問題性

  11日、野田首相がTPPの参加交渉の関係国との協議をする、という表明がありました。TPPのメリット、デメリットは色々あるかと思いますが、まず問題として、
推進派にしろ反対派にしろ、「情報が少ない」という事があります。


  「それは協議をしていないからじゃないか」とおっしゃられる方もいらっしゃるかと思いますが、まず協議に入らないと内容が分からないという事自体が、TPPのおかしな点としてあるかと思います。


 また協議がまともに協議として、公正な話し合いになるならいいのですが、「21世紀の不平等条約」とも一部で言われるTPPについて、程度の差があるにせよ対米従属な民主党自民党両党が、対米交渉で公正な話し合いと対等な立場での交渉をできるとは思えません。正直、自民党が与党で民主党が野党だったら、自民党はTPPを主張し、民主党は反対しつつ最終的に折れる、というような、今回でも行われている擬似的二大政党制の茶番劇が起きただけだろうと個人的には思います。


 その、協議を行った後に交渉参加となった場合なのですが、まず問題は交渉参加の資格として、各種自由化、障壁撤廃を行わなければ交渉資格がない、という、極めて厳しい条件があり、そのため交渉参加は医療にしろ農業にしろ、TPPへ参加する前に交渉の段階で危機に晒される危険性があるかと思います。


  また、TPP交渉に参加するには、現時点で交渉中であるシンガポールニュージーランドブルネイ、チリ、アメリカ合衆国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの全ての同意が必要で、そのための各国政府が議会での承認を得る時間を考えると、2012年の夏までに作る予定のルール策定作業に参加が事実上できない、時間がない、という状態なのも問題です。


 「ほらみたことか、早くTPP交渉に参加すればよかったのだ」とおっしゃられる方もいらっしゃるかと思いますが、反対派、慎重派としては交渉参加自体が各種自由化を、
アメリカが強調するのでは農業と医療などの自由化を強要されるものですから、交渉に参加するという前提自体がおかしい、ということがあります。


 そもそも、ラチェット条項のように不可逆性条項など、国内政治、主権の侵害になりかねない条項があるのを考えると、TPP参加は急ぐ方がおかしく、国民的議論を経て行われるべきもので、与党が強引な強行採決を行ったりなど、非民主的手法を用いた参加をすべきものではないかと思います。


  また、その上で、経団連や日経などが上げる脅威としての米韓FTAですが、その内容はもし韓国の輸出がアメリカ経済を脅かすものになったら、
関税を復活させることができるという、非常に分かりやすい不平等条約で、現に韓国内ではFTA反対派がデモを行っていますが、韓国政府はデモやネット上のFTA反対な発言を、風説の流布として刑事的措置を取るという強硬な策をとっています。


  そのような、経団連が言うところの脅威であるという米韓FTAの内容ですが、日経ビジネスオンラインの記事で挙げられていた「毒素条項」を見ると、これは韓国が日本など諸外国より優位に立つようになるような条項でない事が分かるかと思います。具体的には、
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(1)サービス市場開放のNegative list:
   サービス市場を全面的に開放する。例外的に禁止する品目だけを明記する。


(2)Ratchet条項:
   一度規制を緩和するとどんなことがあっても元に戻せない、狂牛病が発生しても牛肉の輸入を中断できない。


(3)Future most-favored-nation treatment:
未来最恵国待遇:今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米にも同じ条件を適用する。


(4)Snap-back:
自動車分野で韓国が協定に違反した場合、または米国製自動車の販売・流通に深刻な影響を及ぼすと米企業が判断した場合、米の自動車輸入関税2.5%撤廃を無効にする。


(5)ISD:Investor-State Dispute Settlement。
韓国に投資した企業が、韓国の政策によって損害を被った場合、世界銀行傘下の国際投資紛争仲裁センターに提訴できる。韓国で裁判は行わない。韓国にだけ適用。


(6)Non-Violation Complaint:
米国企業が期待した利益を得られなかった場合、韓国がFTAに違反していなくても、米国政府が米国企業の代わりに、国際機関に対して韓国を提訴できる。例えば米の民間医療保険会社が「韓国の公共制度である国民医療保険のせいで営業がうまくいかない」として、米国政府に対し韓国を提訴するよう求める可能性がある。韓米FTAに反対する人たちはこれが乱用されるのではないかと恐れている。


(7)韓国政府が規制の必要性を立証できない場合は、市場開放のための追加措置を取る必要が生じる。


(8)米企業・米国人に対しては、韓国の法律より韓米FTAを優先適用
  例えば牛肉の場合、韓国では食用にできない部位を、米国法は加工用食肉として認めている。FTAが優先されると、そういった部位も輸入しなければならなくなる。また韓国法は、公共企業や放送局といった基幹となる企業において、外国人の持分を制限している。FTAが優先されると、韓国の全企業が外国人持分制限を撤廃する必要がある。外国人または外国企業の持分制限率は事業分野ごとに異なる。


(9)知的財産権を米が直接規制
  例えば米国企業が、韓国のWEBサイトを閉鎖することができるようになる。韓国では現在、非営利目的で映画のレビューを書くためであれば、映画シーンのキャプチャー画像を1〜2枚載せても、誰も文句を言わない。しかし、米国から見るとこれは著作権違反。このため、その掲示物い対して訴訟が始まれば、サイト閉鎖に追い込まれることが十分ありえる。非営利目的のBlogやSNSであっても、転載などで訴訟が多発する可能性あり。


(10)公企業の民営化
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 といった形で、以前「グローバルスタンダード」と自称していたアメリカニズムな内容で、韓国側としては輸出関連の財閥以外は利益がないような内容です。


   このような「毒素条項」が盛り込まれないか、という懸念では、先述のように交渉の段階で参加するために、米韓FTAで要求されるような各種自由化を必要とされていて、この段階で十分主権の侵害と条約でもないのに国内法に優越するという異常な事を強いられるということを考えますと、国民的合意もなく参加表明するべきではないと思います。


  また、ISD条項の問題性ですが、これが公正か、といえば、「もし公正に運用されるなら」ということになり、運用する加盟国の中で発言力が飛び抜けているアメリカ次第ということになります。一応、世界銀行に付属している国際投資紛争解決センター(ICSID)を通じてのISD条項の適用、というのが交渉内で挙げられているようですが、
その場合、その判決は民事裁判のように上訴できない一審制で、例え国内法に反してても強制力が判決にはあり、国内法を優越する、というのが大きな問題としてあります。


 これは、世界銀行自体がアメリカの強い影響下にあることを考えると、そのISD条項が公正に用いられるか、というのが大きな問題となっていて、
ISD条項にオーストラリアは反対しています。しかし、NAFTAなどを見る限り、またTPPの性質を考える限り、TPPをするならISD条項が
アメリカにとっては必須でしょうし、取り下げられる可能性はあまりない事を考えると、交渉参加をしても覆せるか大きく疑問です。


 一番の問題は、TPPが国内法より優越して、かつ政権交代がなされて離脱しようとしても、離脱できないで強制力を持ち、加盟国の国民主権を脅かす、民主主義の危機である事と、以前「グローバルスタンダード」と自称していた新自由主義アメリカニズムが、地域ブロックに形を変えてスタンダードとなり、「アメリカ化」を相手国の国民主権を侵害して強いる事、という事ではないかな、と個人的には思います。


(個別の医療、農業に関してももちろん大問題なのですが、民主主義が破壊されれば、反対すらできなくなってしまうという、民主政の過程での自己回復の危機として、挙げさせて頂きました。)



○後記
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