麻生副総理の「ナチスの手口を学んだらどうかね」発言に関する解釈問題

先日、都内で開かれた後援会で 麻生太郎副総理が「憲法はある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね。」と発言した事について物議を醸していますが、一体どういう意図による発言だったのでしょうか。以下が実際の麻生副総理の発言です。

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僕は今、（憲法改正案の発議要件の衆参）３分の２（議席）という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で（政権を）とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。


　そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持（きょうじ）であったり、そうしたものが最終的に決めていく。


　私どもは、周りに置かれている状況は、極めて厳しい状況になっていると認識していますから、それなりに予算で対応しておりますし、事実、若い人の意識は、今回の世論調査でも、２０代、３０代の方が、極めて前向き。一番足りないのは５０代、６０代。ここに一番多いけど。ここが一番問題なんです。私らから言ったら。なんとなくいい思いをした世代。バブルの時代でいい思いをした世代が、ところが、今の２０代、３０代は、バブルでいい思いなんて一つもしていないですから。記憶あるときから就職難。記憶のあるときから不況ですよ。


　この人たちの方が、よほどしゃべっていて現実的。５０代、６０代、一番頼りないと思う。しゃべっていて。おれたちの世代になると、戦前、戦後の不況を知っているから、結構しゃべる。しかし、そうじゃない。


　しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。どこが問題なのか。きちっと、書いて、おれたちは（自民党憲法改正草案を）作ったよ。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、いろんな意見を何十時間もかけて、作り上げた。そういった思いが、我々にある。


　そのときに喧々諤々（けんけんがくがく）、やりあった。３０人いようと、４０人いようと、極めて静かに対応してきた。自民党の部会で怒鳴りあいもなく。『ちょっと待ってください、違うんじゃないですか』と言うと、『そうか』と。偉い人が『ちょっと待て』と。『しかし、君ね』と、偉かったというべきか、元大臣が、３０代の若い当選２回ぐらいの若い国会議員に、『そうか、そういう考え方もあるんだな』ということを聞けるところが、自民党のすごいところだなと。何回か参加してそう思いました。


　ぜひ、そういう中で作られた。ぜひ、今回の憲法の話も、私どもは狂騒の中、わーっとなったときの中でやってほしくない。


　靖国神社の話にしても、静かに参拝すべきなんですよ。騒ぎにするのがおかしいんだって。静かに、お国のために命を投げ出してくれた人に対して、敬意と感謝の念を払わない方がおかしい。静かに、きちっとお参りすればいい。


　何も、戦争に負けた日だけ行くことはない。いろんな日がある。大祭の日だってある。８月１５日だけに限っていくから、また話が込み入る。日露戦争に勝った日でも行けって。といったおかげで、えらい物議をかもしたこともありますが。


　僕は４月２８日、昭和２７年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年１回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか。


　昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。


　わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪（けんそう）のなかで決めてほしくない。

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　こう実際読むと、改憲派でタカ派であり、自民党の憲法改正草案を作り上げた張本人の一人という立場での、眉をひそめるような発言はありますが、憲法改定に関しては、どうも「ナチスに学べ」というのは、少し前後の発言を考えなければ、なかなかそのままでは正しい意図がつかめないものなようです。

　
　ヒトラーがドイツ国民に選ばれた、というのはよく右派の方がおっしゃられますが、実際はナチスが政権を取ったのは連立政権で政権を取ったもので、その直前の大統領選挙に立候補したヒトラーは、現職のヒンデンブルクに大差を付けられて惨敗していますし、その連立政権を作った第一党であって、連立政権を作った事による解散選挙では、政権党として多額の資金援助を受け警察権力を意のままに操って暴力も用いられた選挙にも関わらず、最終的にＮＳＤＡＰの得票率は４４．５％に過ぎませんでした。残りの有権者の半数以上はヒトラーを選ばなかった、という事です。ですので、意外と麻生副総理が危惧されてるほど、ヒトラーは「ユーフォリア的多数者専制」で成立したものではなかった、と言えるのかもしれません。

　
　それはちょっとお話がズレてしましたが、一つは改憲派として「わざわざおおごとにして目立つ形で改憲をするべきでない」、という意味が麻生副総理の発言からは読み取れます。それは終戦記念日の靖国参拝のように「保守派の形式」にとらわれて、現行憲法や憲法９条などを激しく攻撃して目立って改憲をするとマスメディアやそれを通した国民が色々、例えば自民党憲法草案の問題点に気がついてしまう、という意味もあるのかもしれません。だとしたら、改憲とは国民的議論を経てするべきもので、「ナチスに学べ」がこの意味だとしたら、極めて問題だと思います。

　
　しかし一方、もうひとつ「狂騒の中、喧騒の中で改憲を決めてほしくない」という、自民党への強い追い風で改憲がなされるような、「ユーフォリア的多数者専制」に対する強い危惧を、改憲派でタカ派の、自民党憲法草案を作った張本人の一人としての麻生副総理も抱いている、というようにも読み取れる事が興味深いと思います。発言中にバブル世代な５，６０代が頼りない、と改憲が正しい事で、理解していないのが悪いかのようにも取れる発言がありますが、それもあるかもしれませんが、ここでは、そういった「一番頼りない」という改憲に懐疑的な５、６０代を放置して、改憲に前向きな２，３０代などによる強い自民党への追い風で成立させるべきではない、というように読み取れる事ができるかもしれません。

　
　また、「しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。どこが問題なのか。」というのも、改憲派は議論を重ねて自信を持って出せる憲法草案を作ったのだから、批判するにせよ静かに落ち着いてどこが問題があるとすればどこが問題なのか、考えて欲しいということなのかもしれません。ただ、個人的にはとても練るに練って作られた憲法草案には、憲法学的な面からも、疑問に思わざるを得ませんが…。

　靖国参拝もタカ派として参拝しない方がおかしいとは言っていますが、だからといって何も終戦記念日に参拝するのは、「自分たちは愛国者だ」と目立つのありきでなされているのならおかしく、国のために犠牲になった方々に対して敬意と感謝の念を抱いて参拝するなら、別に終戦記念日でなくとも参拝できるじゃないか、という麻生節なリアリズムがあるかと思います。

　
　個人的には僕は左翼ですし、麻生副総理はあまり好きではなく、というよりも、安倍・麻生といったコンビの政権に危機感を感じています。しかし、麻生副総理の今回問題になっている発言は、表現が極めて不適切で、正しい意図と思われる解釈したとしても、粛々と憲法改定を進めていくというのは、「ユーフォリア的多数者専制」で決めるのも怖い事ですし、それは「上からのクーデター」で、個人的にはとても賛成できるものではありませんが、自民党への強い追い風を利用した「ユーフォリア的多数者専制」での憲法改定に関して危惧をしているとしたら、麻生副総理の政治感覚は、なかなか興味深い事だと思います。


　しかし、僕とは立場が全然違うため、個々の箇所に関しては眉をひそめる部分もありますが、仮にあえて自民党への強い追い風を利用した「ユーフォリア的多数者専制」で決めるべきではない、憲法草案には自信があるから粛々と理解を冷静に話し合って浸透させていって自然に変えるべきだ、と言っているとしたら、僕は改憲に反対ですが、改憲派の麻生副総理の判断として考えると、それは圧倒的に議会では有利な状態にある改憲派にも関わらず、数の論理に走らない正常でフェアな政治感覚なのかもしれません。


　しかしながら、麻生副総理が言う「改憲論」の「ナチスに学べ」が、先述のような国民への冷静な話し合いによる自然な浸透などの意味ではなく、マスメディアの監視を逃れる形で国民に見えない所から知的エリートによって粛々と騒がず国民の注目を集めないうちに改憲をしていって憲法を書き換えるという、一種の「上からのクーデター」的なものの意味だとしたら、それもまた、「思想としての民主主義」「国民の憲法制定権力」に反すると思いますし、その意味だとしたら僕としては絶対的に反対です。




※２０１３．１２．０６追記
　実際にこの秘密保護法は本当にナチスの手口を真似て、たった１ヶ月の突然のスピードで、議事録に載らないような強制採決を取られ、議会運営のルールである野党からの委員長を２人、強行採決に邪魔だからと与党の委員長に首をすげ替える憲政史上例のほぼない事をし、抗議するために圧倒的に政治的無関心が多い中集まってくださった人々の声を、邪魔な弾圧相手に便利な「テロリスト」扱いをし、最終的に強行採決で成立させる…形式的には合法的にできたナチスの全権委任法も、ほとんど審議期間を与えずに採決されましたし、政治的無関心の中の強行採決はまさに「ナチスの手口」を学んだものでした。この、楽観的で安倍麻生政権を甘く見ていたこの記事は、消そうとも思いましたが、自分への戒めのために、この追記を本文として、残しておきたいと思います。大変申し訳ありませんでした。

○後記
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